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最果タヒ『空が分裂する』を読んで 死と思春期について

公開日: : 最終更新日:2016/03/28 おすすめ小説

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こんにちは、taskey U編集部の伊藤です。

いつだって、詩とは私にとって難しいものでした。最果タヒ氏の『空が分裂する』の文庫版が出たと聞いて読んでみたのですが、やっぱり難しいです。

しかし、『空が分裂する』が私にとって全く意味の無い作品だったかというと、そうではありません。

読了後、私はとても不思議な気持ちになりました。言葉で何かを伝えられたのに、何かイメージをそのまま注入されて、それを私も言語化できていない。そんな感覚です。

あまり詩を読み慣れていない私は、3回くらい読まないと何かを感じ取るのが難しいのですが、今回は初読での感想を書いていきたいと思います。

死ぬことと生まれること

deadoralive

かわいい。死。切なさ。愛。混沌から生まれた言語は、やがて心に突き刺さり、はじける感性が世界を塗り替える。

via:『空が分裂する』裏表紙

文庫版『空が分裂する』の裏表紙の一部を引用しました。

「かわいい。死。切なさ。愛。」乱暴ではありますが、この4つの単語に、最果タヒ氏と『空が分裂する』の全てが詰まっているように思います。

特に私が『空が分裂する』の中で印象的だったのは、「死」に関することです。

死に対する感傷はありふれていて、「死にたくない」「死ぬのは悲しい」「いつか死ぬから、精一杯生きよう」ということを言われても、当たり前すぎて退屈です。

しかし、最果タヒ氏は、違った方法で「死」を切り取っている。それは多くの場合、「生まれる」ことと対になっています。

たとえばこれから死んでも人類が生きつづけるということが、私以外のみんなが人類の一こまとしてすてきにえいえんであることが、ぴかぴかと光って見えていました。

via:「放火犯」p.24

どこでだってみんなしんでいるらしい 生きている人のほうが少数だって聞いたよ、それなのにみんな、まだ生まれてもいない未来の子供にだけ優しいんだ。あかちゃんよりずっと前の、あの子たちのためにコンクリートをこねくりまわしている、ぼくら、奴隷だったね。もう生まれちゃったから、もう終わってしまったんだ。うまれるまえがいちばん、愛されていた気がする。

via:「12歳」pp.64-65

待っている。ぼくが死ぬのを。ぼくが最後の息をするのを。心臓が止まるのを。じっと待っている。何十億人もの未来人たちがじっと待っている

via:「おめでとうさようなら」p.92

死ぬことは怖い。けれど、なぜそれが怖いのかとうことからは目を背けがちです。彼女は、そのことを徹底的に考え抜いています。そして、その結実がたとえば「何十億人もの未来人たちがじっと待っている」なのです。

ニュースやドキュメンタリーを見ていると、「後世のために」という言葉をよく聞きます。もちろんそれは素晴らしいことなのですが、人間はもっと肩の力を抜いて自分本位で生きても良いんじゃないかなと思いました。別にエジソンも、僕らの文化的な生活のために電球を発明したわけではないでしょう。

結局、死ぬのが怖いということは、「意味の消失」が怖いことなんだと思います。生きているからこそ私たちは知覚することができ、そこに意味が生まれる。でも死んでしまったら何も無くなってしまって、意味が消失してしまう。だから、「後世のために」なんて言って、自分の意味を残そうとするのでしょう。

ところで、先ほども引用した「おめでとうさようなら」の冒頭で、最果タヒ氏は以下のように綴っています。

100年後だれもぼくをしらないせかい、ぼくらが苦しみながら死んだ、ことをしらない世界、

via:「おめでとうさようなら」p.92

私たちが後世に何か意味のあるものを残したところで、彼らは「ぼくら」のことを覚えていない。歴史の授業で数百人の偉人を覚えるのに辟易したけれど、その裏には何百億、何百兆、あるいは何百京という名前も知らない人々がいて、私達もその存在や意味を知らないまま死んでいくのです。

名前を知られなくても、何か意味を成すことができれば良いというのも素晴らしいと思います。むしろ、そう折り合いをつけて生きていくべきです。しかし、そこにずっと疑問を抱き続ける人が何人かいても良いなあと、この詩集を読んで考えました。

思春期の特権

soragabunretusuru saihatetahi

私は本の感想をネットで収集するのが好きなのですが、いくつか感想を読んでいると、最果タヒ氏の詩を「思春期的」と評価している人が多いように感じました。

「かわいい。死。切なさ。愛。」なるほど、確かにこれは思春期的ですね。

私はこの詩集を読んでいて、「思春期的だなあ」と思うことができませんでした。「思春期的だ」と評価できるということは、思春期的なものから距離を取り、それを客観的に眺めることができている証拠です。

私は、この詩と距離を取ることができずに、どちらかといえば共感する部分が多かったです。

そろそろ私も良い大人なので、「思春期的」と形容される詩に共感するのはヤバいなあと思うのですが、振り返ってみれば、私は今も昔も思春期的な感傷が大好きなのでした。

人間は大人になるにつれて、実生活の方に目を向けていきます。社会的な責任も増加しますし、それは間違っていないと思います。

しかし、どうしてかそうではない人が存在するし、そういう人も必要です。中高生の頃に文学や哲学にはまってしまった人は、なかなかそこから抜け出せないんじゃないかという気がしています。

もちろん、30代や40代で哲学や文学をやっている人がいつまでも思春期的なものにぶらさがっているとは思いませんが、その延長線上にはいると私は考えています。

だから、特に詩というものは好みが分かれるものだと思っています。僕はどちらかというと詩が苦手です。でも、3回読むとその詩のことが好きになってきます。この記事を書くために『空が分裂』をつまみ読みしているのですが、ページを開く度に好きになっているのを実感します。

だから、この詩を読んで「何も分からない」と感じる人は、無理して読まなくても良いと思います。というか、エンタメや芸術というのはだいたいそんなもので、たとえば私は(失礼ながら)レゲエというものがよく分からないので、あまり聴く機会がありません。

ただ、この詩を読んで少しでも「なんかいい」と思ったならば、何度も読み返すことをおすすめします。私も、『空が分裂する』を「なんかいい」と思った人間の一人です。まだ何も掴めてはいませんが、徐々に色んな解釈が出来れば良いなと思っています。

まとめ

以上、ちょっと脱線してしまいましたが、最果タヒ氏の『空が分裂する』について書いてきました。

本文では触れませんでしたが、表紙や21枚のイラストも素晴らしいものばかりです。イラストと言葉が共存している環境というのは、紙ならではのものだと思います。

この詩集を携えて、どこかにでかけてみたいなと思いました。家とは違う場所で、最果タヒ氏の言葉を一つひとつ噛みしめてみたと思います!

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伊藤 祥太
伊藤 祥太
「よく読み、よく書く」をモットーに。小説執筆に役立つ記事を書いています。「無間書房」という文芸同人の代表をしています。

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