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短編連作で綴られる寓話的ライトノベル 時雨沢恵一『キノの旅』の魅力とは

公開日: : 最終更新日:2016/02/26 おすすめ小説

キノの旅1
時雨沢恵一作のライトノベル『キノの旅』をご存じの方は多いと思います。

2000年に1巻が発売されてから、ライトノベル最大手の電撃文庫を代表する作品にまでなった本作。しかし、いわゆる「ライトノベルっぽさ」はそれほどありません。

では、どうして『キノの旅』はライトノベルとしてヒットしたのでしょうか。

今回は、ライトノベル『キノの旅』のヒットの理由について考察します。

ライトノベルとしての魅力、寓話としての魅力

キノの旅2
みなさんは、「ライトノベル」をイメージしたとき、どんな作品を思い浮かべるでしょうか。

私はライトノベルをよく読みますし、書店に行けばライトノベルコーナーに行くことも多いのですが、目立つのはやはり、かわいらしい美少女キャラが前面に出された、マンガやアニメに近いサブカルチャー的な面です。

すべての作品が当てはまるわけではありませんが、

  • ツンデレやボクっ娘など、様々な特徴を持った美少女がたくさん出てくる
  • 一般人だが実は特別な能力を持つ主人公がいつの間にかハーレムを作っている

というのが、ライトノベルの定番と言えると思います。

『キノの旅』は、若い旅人・キノと、喋るモトラド(二輪車。空を飛ばないもの)のエルメスが、様々な国をめぐる物語です。

キノは少年のような容姿を持ち、一人称が「ボク」のいわゆる「ボクっ娘」で、かなり腕の立つパースエイダー(銃器)使い。…と説明すると、「ラノベらしい」要素が多分に含まれているように見えますが、旅人のキノは傍観者の立場にいることが多く、かわいらしいキャラクターとして描かれることはほとんどありません。

「立ち寄った国には3日間だけ滞在する」というルールで旅をするキノとエルメスは、常に第三者の立場で国の歴史や習慣を見てまわります。

不思議な国の秘密が滞在3日目に明かされたり、素晴らしい制度の裏にはおぞましい事情があったりと、寓話的なシナリオが多いのが『キノの旅』の特徴。

ライトノベルとして気軽に読むこともできるけれど、そこにはしっかりと寓意がこめられている。これが、『キノの旅』の大きな魅力と言えるでしょう。

短編連作の形式が、ライトノベルの読者層にちょうどいい

ライトノベルは中学生・高校生を主要なターゲットとした小説。

もしライトノベル作家としてデビューしようと考えるのならば、中高生へ向けた作品を書かなければなりません。

実際、学生時代に『キノの旅』を愛読していた経験から言うと、「短編連作」という形式は中高生の生活に溶け込みやすいものです。

中高生の読書時間と言えば、「朝読書」の時間。始業前の十分程度の読書時間を、懐かしく思う方もいるのではないでしょうか?

この10分間の朝読書に、『キノの旅』のボリュームは丁度いいのです。

他にも、授業の合間や休み時間、登下校の電車やバスの中など、隙間時間で読むのにぴったりです。

短時間でキリよく読み切れる『キノの旅』は、他に読むものがないときによく読みなおしていた記憶があります。

もちろん「面白いこと」がライトノベル界の条件ではありますが、中学・高校での読書スタイルを想定した構成にすることでヒットに繋げられるかもしれませんね。

『キノの旅』は星新一作品に似ている?

この記事を読んでいる内に気付いた方もいるかと思いますが、「寓意性」や「短編集の形式」など、『キノの旅』と星新一作品には共通点が数多くあります。

私が『キノの旅』と出会ったのは小学校6年生のころだったのですが、確かに当時家にあってなんとなく手に取った星新一の短編集『ボッコちゃん』と同じような読後感だったのを覚えています。

この「読後感」を言葉で表現するのは難しいのですが、謎が解けた後の気持ちよさと、後味の悪さからくる気味悪さが混ざったものと言えばいいのでしょうか…。

2つの作品から同じような読後感を味わった当時の私ですが、実はその共通点には長らく気づくことができませんでした。

そもそも読書量が少なく、短編の形式をとった小説自体、『キノの旅』と『ボッコちゃん』だけしか知らなかった時期が長かったのが大きいかもしれません。「短編小説はこういうものなんだ」という受け止め方をしていたようにも思います。

星新一の短編集『ボッコちゃん』はもう「ボッコちゃん」と「殺し屋ですのよ」くらいしか内容を覚えていないのですが、こちらもおすすめです。私も読み直したくなってきました…。

ボッコちゃん (新潮文庫)

おわりに

いかがでしたか?

ライトノベルの「分かりやすさ」と寓話の「深さ」、そして短編連作の「読みやすさ」が『キノの旅』の魅力。

人気作品の魅力を分析することで、創作活動に活かせるものが見つかるかもしれませんね。

キノの旅 The beautiful world (電撃文庫 し 8-1) キノの旅 (19) the Beautiful World (電撃文庫)

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飯泉 涼花
飯泉 涼花
文章を書くことばかり考えています。大学では小説創作を専攻し、創作のノウハウや批評の仕方などを学んできました。クリエイターのみなさまの創作意欲を刺激する記事が書けるよう、頑張ります!

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