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名言から読む『キノの旅』 ~名言とシナリオの関連性

公開日: : 最終更新日:2016/02/26 おすすめ小説

キノの旅名言まとめ1
こんにちは! taskey U編集部の飯泉です。

一つひとつの短編がメッセージを持つ「寓話的」ライトノベルである『キノの旅』には、その寓話性を高める名言が多く登場します。

短編のシナリオと密接な関連を持つ名言は、読んだときに強く印象に残るもの。自分で小説を書くときにも参考にしたいですよね。

今回は、『キノの旅』の1~5巻から、シナリオと繋がりのある名言を抜き出してみました。

キノの旅 the Beautiful World (電撃文庫)

『キノの旅』の寓話性を高める「名言」

キノの旅名言まとめ2
「寓話」は、教訓や批判を含んだ内容の物語のこと。

シナリオ全体のテーマとなる教訓を表す名言をまとめました。

「森の中で・b」

『キノの旅』のプロローグとエピローグには、共通のタイトルにそれぞれ「b」と「a」がつけられています。

プロローグとエピローグを繋げるとひとつの物語になり、全体の流れが分かるのですが、時系列はエピローグ→プロローグ。なので、プロローグは唐突な始まり方だったり、どうしてそのような状況に陥っているのかが謎だったりします。

「森の中で・b」は、キノが旅を続けている理由を語る場面から始まり、キノはこのように締めくくります。

「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」

『キノの旅』1巻 P12

どうしてキノが旅を続ける理由を語ることになったのか。その流れは、実際に1巻エピローグの「森の中で・a」を読んでお確かめください。

「コロシアム」

冒頭、次に訪れる国へ向かう道を走るキノとエルメス。

誰も通っていない道ではあるものの、荷物を満載して猛スピードで走ったことを咎めるエルメスに、キノはこのように返します。

「たまには、自分の最高の実力を出すべきだ。そうしないと、知らない間に腕はにぶるものさ」

『キノの旅』1巻 P102

このセリフは、国を訪れたあとにもう一度登場し、キノ自身も「最高の実力」を出すことになります。

そしてもう一つ、キノが愛用するパースエイダー(銃のこと)・カノンも「最高の実力」を発揮。

キノがその準備をする場面では、「ガンマニア」でもある作者・時雨沢恵一ならではの詳細な描写を読むことができます。

「人を殺すことができる国」

とある国に向かうキノとエルメスは、道中馬で旅をしている男と遭遇します。

「紳士的な国だ」という噂を聞いて次の国に向かっているキノでしたが、男はその噂を笑います。

その国は「殺人が法律で禁止されていない国」で、自分は人を殺すために移住するつもりだと語る男。

モトラド(二輪車、バイクのようなもの。空を飛ばないものを指す)と馬とでは速さが違うので、キノは男よりもはやく入国します。後から入国した男は、因縁をつけてキノを殺そうとしますが──

その場に居合わせた老人の言葉が、「人を殺すことができる国」の本質を表しています。

「“禁止されていない”ということは、“許されている”ということではないんだよ」

『キノの旅』5巻 P31

一冊の短編集として作品をまとめる「エピグラフ」

キノの旅名言まとめ3

エピグラフとは、文書の冒頭に置かれる文のこと。

同じ、あるいは関連するテーマを持つ他作品からの引用であったり、作品全体をまとめる詩であったりと様々な形式があります。

『キノの旅』1巻のエピグラフ「世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい」は帯にも記載され、『キノの旅』を紹介するときには必ずと言っていいほど引用されています。

なんとなく「いい言葉だな」、と思うだけになってしまいがちなエピグラフですが、『キノの旅』の各巻のテーマを伝える重要な役割を持っているもの。

収録されている短編を全て読んだあと、もう一度エピグラフを読み直すと、読む前と違った印象を受けるかもしれません。

巻頭のエピグラフと、それに関連する名言を集めました。

3巻 知っているのか 知らないのか 知っているのか

3巻のエピグラフは、一度読んだだけではなにを言っているのか分からない、不思議な感覚になる言い回し。

知っているのか 知らないのか 知っているのか
─Where is the terminal?─

『キノの旅』3巻 P9

テーマは「無知の知」です。

「『知らない』ということを知る」考え方は、ギリシャのソクラテス、中国の孔子に共通するもの。

テーマを意識しながら読むと、独立した短編それぞれに繋がりが見えてきます。

特に、「雲の中で・b」に登場するキノのセリフは、「無知の知」をストレートに言い表しています。

「ボクも、何か知らないことがあるかもしれない。そしてそれを知らないまま、同じような目に遭うかもしれない。もちろん避けたいけれど、知らなければ、どうしようもない」

「ねえエルメス、ボクは知ってるのかな?」

『キノの旅』3巻 P13

どうしてキノがこのような考えを口にすることになったのか。

理由となったできごとは、エピローグ「雲の中で・a」で明らかになります。

4巻 “この場所を知らず 夢の地を目指し 夢の地について この場所を知らず”

「理想の環境」を求める気持ちは、どんな人にだってあるもの。

4巻のエピグラフは、その気持ちがずっとなくならないことを言い表しているようにも見えます。

“この場所を知らず 夢の地を目指し 夢の地について この場所を知らず”
─Wherever I go, there I am.─

『キノの旅』4巻 P11

2行目の英文は、ことわざ「Wherever you go, there you are.」をもじったもの。ことわざは、「あなたがどこに行っても、問題から逃れることはできない」という意味を持っています。

現代社会に住む人々にとって、まさに「夢の地」と言えそうなのが「仕事をしなくていい国」。

科学技術が発展し、生産からサービスまで全ての産業が機械によって提供される国では、それでも仕事をする人々がいます。

「仕事をしなくていい国」で仕事をする男性から話を聞くことができたキノは、彼と別れたあと、エルメスにこのように語ります。

「人間、楽ができる場合は楽をした方がいい。今がまさにその時だ」

『キノの旅』4巻 P91

「認めている国」では、キノとエルメスが訪れた期間中にある祭りが開かれていました。

国には「必要な人の名前を書いて投票し、必要とされていない人間を選ぶ」選挙があり、「必要とされていない人間」がいなかったとき、祭りが開催されます。

キノは国内で、「必要とされていない人間はこれまで1人もいない」という話を聞きますが、出国後、とある事情で国の外に出ていた国民から真実を聞くことになります。

医療と社会保障の発展した「認めている国」の裏にある合理的な考え方は、「夢の地」について考え直すきっかけを与えてくれるかもしれません。

『無駄なものは、いらないものだ。人にとっても国にとっても、必要あるものをきちんと保持し、必要ないものをすっぱりと処分することが必要なのだ』

『キノの旅』4巻 P151

5巻 美しいと思うから 美しいと思う

なにを「美しい」と思うのかは、その人が育った環境や、属する社会の習慣・文化によって左右されるもの。

5巻のエピグラフは「最初から美しいものなんてない」という意味を持っていそうです。

美しいと思うから 美しいと思う
─Have I Ever Seen the Beautiful World?─

『キノの旅』5巻 P9

「夕日の中で・b」は、ある風景を「美しい」と思う人物の独白が書かれています。

しかし、彼が「美しい」と思う風景は、周囲の人々にとって「美しくない」と思うもの。価値観のずれを意識しながらも、彼は「美しい」と思うことをやめません。

 それが、ボクの心がおかしくて、狂っていて、壊れていることの証明だとしても……。
 それでもボクは、そう思えることを幸せに思う。思える今を大切に思う。

『キノの旅』5巻 P5

彼が「美しい」と思い、他の人々が「美しくない」と思う風景とは──答えは「夕日の中で・a」に書かれています。

クリエイターに刺さる「本の国」の名言

キノの旅名言まとめ4
『キノの旅』2巻に収録されている「本の国」は、とにかく本がたくさんある国の話。

そこに住む国民は読んだ本に点数をつけて批評しあいますが、本は国の外からやってくるもの。国内に出版社などはなく、「読む」習慣はあっても「書く」文化がありません。

そんな「本の国」を訪れたキノは、「自分の物語を書く」ことを夢見る一人の国民と出会います。

「書く」文化のない国では、自分の物語を書くことはできても、本にすることはできません。

キノは「本の国」を出たあと、書き手志望の人物と出会い、彼(あるいは彼女)が友人に言い残した言葉を聞きます。

『今度会うときは、私はすぐ近くに、目の前にいるけれど、あなた達の声は全然聞こえない。だから、私に何を言ってもかまわないけれど、何点つけてくれてもかまわないけれど、返事はできないよ』

『キノの旅』2巻 P165

「本の国」を出た書き手志望の人物が、これからどうなるのか、「本の国」内には描かれていません。

自分で考えたものを作り、生み出すクリエイターにとって、特別な存在感を持つ短編になるはずです。

小説を書く方は、地の文なし・セリフのみで展開する手法にも注目して読んでみてください。

おわりに

いかがでしたか?

普段読んでいた小説の読み方を変えることで、書くときの意識も変わってくるかもしれません。

「書き手の意識を持って読む」のが難しいときは、印象に残った「名言」を中心に作品を読み解いていくことにも挑戦してみてください!

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飯泉 涼花
飯泉 涼花
文章を書くことばかり考えています。大学では小説創作を専攻し、創作のノウハウや批評の仕方などを学んできました。クリエイターのみなさまの創作意欲を刺激する記事が書けるよう、頑張ります!

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