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数万冊の中から選んだ反則級の本の帯 「作家志望者は読むべからず!」

公開日: : 小説

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こんばんは。来未炳吾です。

私は古本屋を営んでいる。だからたくさんの本を持っているのだけど、小売業の世界というものは、商品の奪い合いであり、時間との勝負であり……つまり、本を開いて読んでいる時間はあまりとれなかったりする。それでも、気になった本は売り物ではなく、家族用の本棚に並べることがある。

はて、内容を読んでないのに、どこに惹かれるというのか?
それは、「帯」である。

先に、言いたい事を言っておこう。
「この帯がついていなかったら、私はこの本を手にとって開くことはなかったのかもしれない」
人同士の出会いがそうであるように、本との出会いもまた、運命に左右されているのである。

というわけで今回は、これまでに何万冊と本を手に取ってきた私が、特に興味を惹かれた書籍の帯を紹介しつつ、その帯の効果について考察した記事をお届けします。

感覚や本能に訴えてきた

1


■『屠場』 著者:本橋 成一
――写真を見て音や声が聞きたいと切望したことがあっただろうか

一冊目は、屠殺場の写真集だ。この記事を書くにきっかけになった本である。
屠殺場とは主に家畜を食肉用として加工する為に殺したりする、食肉工場のことだ。写真集なので、前書きと後書きを除けば、内容は工場内の日常を写した写真だけで構成されている。

屠殺シーンはネット上の動画で見飽きるほど見た。だから私にとってこの本は特に価値のあるものではない。……価値のあるものではないはずだった。情報量の多さを考えれば、写真よりも動画の方が勝っているのは明らかだからだ。

でも、気が付いたら本を開いて、息を呑んでいた。

鼻輪を引かれて連れていかれる牛の声
肉を吊るす鎖の音
加工機械の駆動音
肉を解体する音
血を想像した時に脳の中でじんわりと広がる感触
屠場で働く人達の表情や笑顔の声

私は写真を見ながら、聞こえない音や声に耳を傾けていた。
もし帯の文言がなかったら、ただの静止画として見ただけだったかもしれない。
この帯の文言は、この写真集の読み方を示しているのだ。

私は自分の意識に起きたことを整理した。無意識の内に、感覚を研ぎ澄ましていたのである。そんな大掛かりなことを気づかない内にやっていたという事実は、とても興味深いものだった。

この出来事をきっかけに、私は帯の効果を意識するようになったのである。

言葉が距離感を埋めた

2


■『精神病棟40年』 著者:時東 一郎
――誤解を恐れずに言えば、精神病棟とは、「人間の捨て場所」なのだ。

自分が「発達障害」という障害者の一人なので、ハンディキャップやメンタルヘスル系の書籍は結構気にする方なのだが、それでも、この帯のインパクトは群を抜いて大きかった。「人間の捨て場所」という表現に強く惹き込まれた。
『精神病棟40年』というタイトルも、十分に内容の厚みや濃さを訴えてくるが、帯を見た後だったせいか、タイトルに物足りなさを感じてしまった。

人間の捨て場所――自分が生きている間に、精神病棟のことをそんな風に思えるだけの経験をするだろうか。そう思えるだけの人生が、この本には書かれているのだ。

さて、三冊目を紹介しよう。

3


■『セックスボランティア』 著者:河合 香織
――障害者だって、やっぱり、恋愛したい。性欲もある。

性行為をボランティアで行っている人達を追ったノンフィクションである。そういう活動をしている人がいるなんて、この本を読むまで私は知らなかった。
一人では性欲処理が困難な障害者の為に自慰介助を行う団体や、障害者専門の風俗店、性行為の為に酸素ボンベを外して命がけのセックスをする当事者など、この本には彼らの言葉が克明に記録されている。

『精神病棟40年』と『セックスボランティア』は、どちらも障害を題材にしたものである。正直、この類の書籍は「障害に関心のある人」ばかりが読者層で、万人が手に取るような印象がどうしても持てないのだが、この帯の文言によって、その距離感は大きく埋まったと思うのだ。

『セックスボランティア』の本を「障害者の性事情」という具合に固く受け止めると、障害に関心のない人は、自分とは関わりの薄い本だと思って読まないかもしれない。でも「恋愛」という万人共通のキーワードが、「自分も読者対象である」と思わせる効果を生んでいる。

『精神病棟40年』も、精神疾患や精神病院のことに関心がなければ、手に取る人は限られてくるかもしれない。でも「人間の捨て場所」という倫理観を掻き立てるメッセージが、この本を目の前に突きつけた。そして、本の存在が記憶に刻み込まれたのだ。「初めて見た時は買わなかったけど、忘れられなくて、あとで買った」という人も少なくないと思う。

こんなのアリか? 読むしかないじゃん!

最後はとっておきの2冊を紹介しよう。
まずは1冊目。帯を外した状態からみてほしい。

4

妙ちくりんな建造物や遺跡を写した写真集であることがわかる。
では、帯をつけた状態で、改めて紹介しよう。 

これが『奇界遺産』の正しい姿だ!



















5


■『奇界遺産』 写真家:佐藤 健寿 イラスト:漫☆画太朗
――そろそろ自殺しようと思ってたけど、この本見てたらワクワクしてきて来年に延期した! 漫☆画太郎

突然の「漫☆画太郎」氏の登場に、意表を突かれた人も多いと思う。まず、落ち着こう。
「佐藤健寿」氏は『X51.ORG : Occult News for Nerds, Truth is Out There.』という超有名なオカルトニュースサイトの管理人である。
そして「漫☆画太郎」氏は「週刊少年ジャンプ」で、『珍遊記』『まんゆうき』などの漫画を連載していたこともあるので、知っている人も多いだろう。こちらも超有名な漫画界の巨匠だ。この本ではイラストを担当していて、各章のタイトルページは漫☆画太郎氏の〝奇怪なイラスト〟が飾っている。

どういう経緯で二人のコラボが実現したのかはさておき、この本は帯が重要な役割を担っている、いい例だと私は思う。
「佐藤健寿氏の作品」としてこの本をみると「真面目な写真集」なのだが、ここに「漫☆画太郎氏の存在」が加わることで、「笑いを目的」として読むこともできるようになった。
実は表紙カバーをみただけでは、この本が「佐藤健寿」氏の作品であることや、「漫☆画太郎」氏のイラストがあることが分かり難い。どうしても遺跡の顔や大きなタイトル文字に目がいってしまう。
もし帯がなければ最初に書いたように、変な遺跡の写真集かと、それ以上思うことはなかったかもしれないのだ。

それでは最後の一冊を紹介しよう。

6


■『ランゴリアーズ』 著者:スティーヴン・キング
――警告! 作家志望者は読むべからず!

一目見て思った。「こんなのありか! ずるい!」と。
心理学の世界では「禁止されると余計にやりたくなる心理」のことを「カリギュラ効果」というらしいのだが、この帯はまさにその効果を利用したものだと言える。
「スティーブン・キング」というネームだけでも十分意識させるのに、こんな文言つけられたら気になってしょうがない!

まとめ

『屠場』は屠殺のシーンをネットの動画で何度もみたことがある。だからあの帯がなかったら、この本の内容に興味をもたなかったかもしれない。『ランゴリアーズ』だって、海外ドラマ版を見たことがあったから、「小説は別に読まなくてもいいや」と思ったかもしれない。

この時代はネットのお陰で、誰でも気軽に自分の作品を世界に公開できる世の中になった。私自身もtaskeyやamazonのkindleなどで、自分の作品を公開しているし、今日も数え切れない程の作品が誕生し、ネットデビューを果たしている。
何気なく過ごした今日という日常は、もしかしたら、100年先まで語り継がれる未来の名作がtaskeyにアップされた、記念すべき日だったのかもしれない。

冒頭でも例えに出したように、「人の出会い」と「本との出会い」はよく似ていると私は思う。人は人と関わり合うことで人生という物語を歩んでいく。すれ違っただけではなにも始まらない。
それは本も同じだろう。

読まなければ、「他人同士」のままなのだ。
いわば帯とは、「人」と「本」を繋げる架け橋なのである。

創造力は無限だ。でも、時間は有限である。その限られた時間の中で、作品を手に取って読んでもらうということは、大変なことなのだ。
一人の物書きとして、そのことを再認識したいと私は思う。

人は生きている間に、全ての本を読むことはできないのだ。

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来未炳吾
taskey Uアンバサダー。来未炳吾(くるみ ひょうご)と申します。2015年10月頃にtaskeyの中で巣作りをしました。読書よりも綴ることに時間を使う人です。他所ではkindle書籍を出版したり、映画を制作したり、あんなことしたり、こんなことをしています。発達障害ASP当事者の一人。古本屋。

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